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光陰



   光 陰


まず姿を消す
次いで空を飛ぶ
水中を自在に動く
地下深く潜る

自分の容積を捨て
重量を落とし
遺伝子を抜き去り
生命を離れる

地球を七回り半
太陽へは近づきすぎず
アンドロメダを横目で
宇宙の果てまで到達する

単位は混乱し
座標は取り違え
史実は消え失せ
音量だけが増大する

色彩は無限に分割され
ピントは合わせきれず
流れの傍らで
呆然と立ちすくむ

任意の時と所で
忽然と姿を現し
居場所を見つけえぬまま
さまよい続ける光陰のしっぽ
# by nambara14 | 2012-06-01 13:58 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

誘惑



      誘 惑


天使の心と悪魔のからだで
街角に立ってチラシを配りながら
ウインクをし笑顔を振りまく

うっかり見とれれば
魂を奪われて夢遊病者のように
商品の前に誘導されてしまう

麝香系の香りにくすぐられ
カラーシャドーの頬と
グローの効いたルージュに惑わされ

売り場に並ぶ小物をいくつか勧められ
考える間もなくレジに並び
クレジットカードを渡してしまう

三歩歩けば雷に打たれて正気に戻る
高額な請求書とすり替わった商品が
安っぽく手提げ袋に収まっている
# by nambara14 | 2012-05-31 11:29 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

不協和音



     不協和音


小さくて中ぐらいの高さの音で
目立たないけど快い響きを目指して
虫のように声帯をふるわせるつもりで
じんわりと音波の発出を試みる

静まり返った周囲の空気が振動し始め
たしかなこだまが聞こえたと思うそばから
超高音の裏返った声が制圧する
限りなく軌道を外しあう不揃いの楽器群

調和を探る迷路は深くむなしく
不整脈のような音響の伝播の中で
さらに超低音のトリルが忍び入ってくる
完ぺきな不調和に悦に入っている有象無象

見えないタクトが振り下ろされると
ミミズでさえ地中から臭いを発し
ゾウアザラシは鼻をそびやかして唸る
まったくありえないハルモニアが出現する
# by nambara14 | 2012-05-30 14:40 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

潮騒

 

     潮 騒


締め切った窓からも
かすかなざわめきは聞こえる
かなたの繰り返しのリズムが
この身の内なる躍動に解け合う

ざーっと寄せてざーっと引く
その単調さに耳を澄ますと
細かな音の上り下りが
複雑な陰影を生み出すことに気付く

嬉しいのか悲しいのか
感極まった叫びか嗚咽か
今の想像力で彩る過去が
裏切ろうとするのだろうか

花瓶に活けられた花の香に
めまいの中に倒れ行く手の先に
かすかに触れる見えない琴線の
受け渡しの記録を残し忘れて
# by nambara14 | 2012-05-29 18:51 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

一難去ってまた一難



     一難去ってまた一難


プラットフォームでバランスを崩した
思わず手近なものに取りすがると
反動で大きななにかが転落した
急ブレーキだけが聞こえた

改札口を出ようとしたとき
機械が故障して脚をしたたか打った
歩いて帰ろうとしたが痛みが強まった
道端で休んでいると雨が降り出した

いざるように飛び込んだコンビニで
ビニール傘を買いお茶を飲んだ
覆面をした男がレジを襲い
店内はホールドアップされた

警察が来る前に男は逃走し
嵐のような表へ出ると道路は水浸し
傘は役に立たずびしょぬれの衣服は
からだに張りつき寒さでふるえた

家に着くと引き出しが開いていて
小物や書類が散らばっている
金目のものは盗まれている
命がなくなる前に風呂に入ろう
# by nambara14 | 2012-05-23 19:00 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)