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     ベビーカーを押した母親たち



乳母車のかたちが変わって
名称も変化した ベビーカーに
子供が乗せられていて それを押す
母親が何人もすれ違っていく

どんなに寒い時でも 風よけをつけて
酷暑の夏にも日よけをつけて
春が来れば衣替え 秋が来れば一枚ふやして
雨降りの用意もおこたらずに

守りとおす表情と姿勢がきりっとしていて
侵しがたい気配が満ちている母を
聖母のように 子供は感じている
と合点して歩き続けていると

突然とどろくような怒鳴り声が聞こえ
打擲する音に続いて泣き声が上がる
手を離れたベビーカーが坂道を転がり落ち
悲鳴が布を裂くように広がっていく
by nambara14 | 2012-05-11 20:16 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

違う言葉を話すひと



     違う言葉を話すひと


近所の子供たちが話している言葉がわからない
顔つき体つきも服装も態度も日本人そのものだ
都会の片隅とはいえ標準語が使われているはずだ
なにかがおかしいのか聴力とか脳波とか体調とか

もう一度そばによって耳を傾けてみる
やっぱり外国語のようにしか聞こえない
昨日までは日本語を話していたような気がするが
一体なにがあったのか 一晩の間に

隣の町まで行ってひとびとの話を聞いてみる
ひそひそ話まで聞こえるじゃないか
母国語ってなんて便利だろう
口笛を吹きながら歩いてみたくなる

日本語によりそった一日を過ごして帰宅する
公園で遊んでいる子供たちの姿はいつも通りだ
家族に今朝の奇妙な経験を告げようとして
自分の言葉が理解できなくなっていることに気が付く
by nambara14 | 2012-05-10 15:33 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

キムチの範囲

 

     キムチの範囲



電車に乗り込んできた女子高生のグループ
キムチのにおいがぷんぷんしているのを
取り繕うかのようにマジ、クセと言い交している

混んでいる時間帯の乗客は老若男女にかかわらず
じっとそのままの距離を保っている
文庫本に目を落としたりイヤホンをしたり

無関心を装う年配の男性の脳内ではきっと
数人の女子高生を筏に乗せ静かに川に流すだろう
空白のポケットを換気扇を強にして回すだろう

電車からの帰り道 さかんにスーツの袖口を嗅いでは
しかめ面で首を振るのを怪訝に思う女子高生とすれちがう
一瞬臭いの入れ替わりの術を使ったのを知らないだろう
by nambara14 | 2012-05-09 19:04 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

突然の知らせを聞いた日



     突然の知らせを聞いた日


新緑がまぶしい山道を
鼻歌を歌いながら歩いていた時
携帯が鳴って
知った声が
早口で告げた言葉は
理解するより早く
感じ取れた

これは言葉でしかないだろう?
取り消せるだろう?

一瞬にして色を失った景色の中を
呆然とさまよいながら
あとからあとから浮かび上がってくる
映像を処理できなくなって
立ちくらみ
うずくまり
目をつぶる

言葉は事実を告げた
これからはじまる未来を暗くする
入れ替わりのきかない配役
リハーサルのない本番
逃げられない

山を下りると
下から影が登ってくる
突っ切ってふもとへ着くと
すっかり夜だ

旅館をキャンセルして予約のない特急に飛び乗る
頭の中は大騒ぎのまま
しなければならない事柄をメモする
となりの席では缶ビールといかのげそで
大声で話す男たちがいて
後ろからはなにやらぼりぼり食べながら
甲高い声で笑いこける女たちの気配がする

窓から見える外と内の景色は重なり合い
ごーっと闇を突きすすんでいく

明日の約束はキャンセルだ
なにもかも突然起きた
予想はしても覚悟ができないから
そういうことにしておく
by nambara14 | 2012-05-07 19:36 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

大人の中にいる子供



     大人の中にいる子供


だんだん顔かたちの変わる金太郎飴を
思いついた箇所で切ってみればさまざまな金太郎が現れる
おいきみはだれだろう見覚えがあるようだが
見つめようとするとたちまちおぼろげになってしまう

一頭の牛の輪郭がズームアップしてくるのを
あやうく避けると座標を見失ってしまって
どちらに向かって走って行ったらいいのか
変換変換変換と震える指先が押し続けて

膨大な数の金太郎飴もどきが錯綜する中を
やけのやんぱち切りかかり引きちぎる
生きのいいうさぎが飛び出してくるのに
見惚れているうちに座標はゆがみはじめる

固有時の勢い余って未来へと飛び出したネズミは
見限って一気に逆方向へと光速に近づいていけば
丸々と太った赤ん坊が乳を吸いながらこちらを見ている
頭を小突いてやればけたたましい声で泣き出す

迷子になったってだれも探しには来れない
極太の飴ん棒を振り回せば粉々に砕け散り
無数の破片が時空せましと漂い始める
ひょっとしてきみたちはいつかの自分だったか
by nambara14 | 2012-05-06 00:17 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)