カテゴリ:詩集「レクイエム」( 1 )

詩集「レクイエム」より

 詩集「レクイエム」(昭和53年刊)より抜粋。

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空洞


おろおろおろおろ泣くのはおよし
愚かしい手でそんなに眼をこすると
しまいには眼が溶けだして
顔がゆがんで口だけが顔になる

手をこするのは顔が顔だと
わかるうちに ゆっくりやるのだ
顔中が泥沼になると
べとべと手が泥んこになってしまう
幼いから顔中で泣いていいのではない

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私は失う


私は失う。
からだを離すとき
私の腕に抱かれていたものを
けだるいとき
砕石機のように眠りを妨げるものを

私は失う。
熱い息を吐きかけようとする私を
私は私の沈黙にとざされて

私は失う。
そのために私が体感を惑わされたあれの在処を
そうして私が快活になろうとした朝を

私は失う。
あれが私に笑(えま)いつつ手を伸べたとき
一息に切り落とした細い手首と
そのとき不意に襲ってきた眠気以外の一切。

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融解


ぬれてきたようだ 足元から
泥水のようなものが上がってくる
どこかで洪水でもあったのだろうか
暗い。(なぜ今夜は星一つ見え
 ないのだろう)
わたしは一輪の花ではない
よく清水を吸い上げ したたる
までに蒸発することがない
すると わたしの
どこかが融けだしているのか
暗い。
融けだしたのがわたしの手 わたしの指であるとしたら
わたしは わたしに触ることができない
からだ全体が泥のようになってしまったのか
まっ暗で 何も見えない。
わたしは持てるかぎりの力をふりしぼり
「歩く」つもりになった
わたしの固さを確かめるため
いたるところで 柱にぶつかりたかった
ああ 風のなるのが聞こえる
赤ん坊が泣いているのかも知れない
歩いているのか 這っているのか
まるで わからない
電力会社に電話をしなければなるまい
ユミ子のところへ遊びにゆく約束がある
ああ 暗い。
唇をとがらせ 舌をいっぱいにつきだして
泥でもいい 汚物でもいい 嘗めたい
泥のように流れてしまいそうだ
なめたい。
わたしよ 土になるとはこういうことなのか
わたしよ 人々は夜をよく眠っているのか



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by nambara14 | 2007-05-31 10:34 | 詩集「レクイエム」 | Comments(0)