カテゴリ:新作詩歌(平成22年発表)( 132 )

プランクトン




     プランクトン


        ――名前はなくてもアイデンティティはある
        素粒子のようにアイデンティカルではないと主張する――


イチローと名づけられて真っ先に泳ぎ出したプランクトンのあとに
名づけられたいプランクトンが列を成す
ジロー、サブロー、ゴロー、ロクロー、では安易過ぎると
イチコ、ニコ、ミツコ、ヨッコ、イツコでは女性らしくないと
列を乱して抗議するから
テツヤ、ショウタ、コウヘイ、
マリエ、ミリヤ、サオリ、なんかはどう?

その時急に現れた魚群
名づけられた歓びを十分に味わう前に
おびただしい数の群として
プランクトンは魚の口に吸い込まれる
イワジロウ、イワノフスキー、イワノフなどが
背びれ、腹びれを揺らしながら
空腹を満たしていく

やがて突然巨大な哺乳類が闖入しても
眠りをむさぼる魚たちは気づかない
大量の海水が吸い込まれてはじめて
あわてて逃げ惑うが遅すぎる
名前を呼ばれることもなく
大きな口の中へと流れ込む

水中を魚雷のように走ってくる銛
巨太郎の腹に命中すれば
システマティックに加工された
缶詰の山 丸巨印のブランドだ
いやあこれはうまい、ねえスズキ君
まあ、一杯、ケンさん、アレックスさん、それにバラクさんも!


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by nambara14 | 2010-12-29 22:22 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

ほんのすこし




     ほんのすこし


自分が生まれ変わることはない
だれだってそうだ
自分がそうだということを知り
あなたが想像する厳かな現実を思えば

どうやって自分自身をそして他者を愛せるだろう
かれらを知れば知るほど
かれらに疑いを感じてしまうのに
人生はなんという神話だろう 自分にも他者にも

みんなそしてぜんぶ ここにおいで
わたしたちが今日お互いに理解し合えないとしても
話したり歌ったり食べたり飲んだりしよう ここで

真実は知らないがなにかを感じる
毎日なにかを得なにかを失う
最後にほんのすこしのなにかがここに残ればいいのだ


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上記の詩は、下記の英文の自作詩を自ら訳したものです。


     A little bit

I can't be born again as myself
Either can't anyone of you
Knowing the very fact of myself
Thinking of the solemn reality imagined by you

How can I love myself and others
The more I know them
The more I doubt others
What a myth life is to me and to them

Come everybody and everything
Even if we couldn't understand one another today
Let's talk , sing , eat and drink ,here

I don't know the truth but I feel something
I get and lose something day after day
At last I wish a little bit of something left here


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by nambara14 | 2010-12-16 22:42 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

A little bit



A little bit

I can't be born again as myself
Either can't anyone of you
Knowing the very fact of myself
Thinking of the solemn reality imagined by you

How can I love myself and others
The more I know them
The more I doubt others
What a myth life is to me and to them

Come everybody and everything
Even if we couldn't understand one another today
Let's talk , sing , eat and drink ,here

I don't know the truth but I feel something
I get and lose something day after day
At last I wish a little bit of something left here


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by nambara14 | 2010-12-13 13:21 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

罪科



       罪 科


あらがう自分の手足のねじれとつっぱり
くりかえし肩をつかみ腕を引くものがある
うすぐらいので目をこらしても姿は見えない
気がとおくなっていっそ引く力に身を預けようと思うが
はっと気がつくとはげしく抵抗する自分の体がある

ほとんど無限の小競り合いが続いて
そろそろあきらめの気持ちが芽生えはじめたころ
ふいにからだの中心に触れてきたやわらかなものがある
虚をつかれていっさいのあらがう意欲を失い
包みこまれるのに身を任せてしまった

しびれるような感覚にひたったまま
夢うつつの狭間を漂った
記憶にはないがなつかしい感情が
代わる代わる波のように押し寄せ
あまりの心地よさに息がとまるかと思われた

いまや涅槃図にはいりこんだと思われたとき
ぐいと胸ぐらをつかまれたような気がした
冷たくて広い部屋の中に立たされて
即刻罪名が告げられたようだ
鞭打たれるような耐え切れぬ痛みが襲ってきた


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by nambara14 | 2010-12-09 14:01 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

変貌



      変 貌


いい天気 歩みののろい 散歩者は 宣伝カーの 言葉さえ聞く


   さわがしき 師走の午後に 返し来つ 

   帰り来て 一杯の茶を いとおしむ
    
   ディープ・ブレス あきらめの雲 飛んでゆけ


そのときの 光景をいくども 思い返して 
焼き付けた 写真を何枚も 重ねた記憶野。
こんなにまぶしい目の前の景色も 
一枚はがせば黒ずみ
二枚はがせばくすみ 
三枚はがせば消えうせる。
幾層にも重なった顔が 笑い怒り泣き渋り悲しみ 
ついに無表情へと 変貌を遂げる。


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by nambara14 | 2010-12-01 21:48 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

えもいわれぬ



     えもいわれぬ


絵にも描けない街のずっと入り組んだあたりを
騒音が空耳を消してしまうあたりを避けて
深く入り込んでいく路地のどんづまり
細い道には劣化したコンクリートの階段があり
その両脇に不ぞろいな家々が立ち並ぶ中に
階段の途中という名の画廊があった
ぎしぎしと音を立てるドアを開けて
そっと中を覗いてみるがだれの気配もない
なにかに惹かれるように中へ入ると
奥は意外にふくらみのある空間で
壁に掛けられた絵だけが目立って見える
一枚目はまさにこの画廊を描いた絵に見える
二枚目は画廊の玄関
三枚目は画廊の内部
四枚目はまさに一枚目の絵
五枚目は二枚目の絵
全体で十枚ほどしかない絵を見ていくと
途中でどうしてもめまいがしていくる
どこから見ても混乱してしまう
しだいに息苦しくなるが
画廊の中にはいつまで経ってもだれも現れない
ひざがふるえて歩けなくなる
目の前の絵が相互にダブり立体的に動き出す
とにかく逃げるに越したことはないという
本能にしたがって
死に物狂いで外に飛び出す
走り出す拍子に階段で転んで
したたか脛を打ち腕をすりむいた
血のにじむ傷口に追い立てられるように
盲滅法駆け回るうちに
ぽんと開けた場所に飛び出した
よく見ると十枚目に描かれた場所ではないか
えもいわれぬ


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by nambara14 | 2010-11-30 16:19 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

ごっつんこ


     ごっつんこ


こうちゃんとえなちゃんがごっつんこ
ともだちも真似してごっつんこ
あたりどころが悪い子が泣き出した
ママがやってきて怒り出す

おとなの目じりがつりあがり
なじる言葉がごっつんこ
てんでに手を引きそっぽ向き
背中であらわすごっつんこ

みんながぶらつく散歩道でも
吠えあう犬がごっつんこ
飼い主が引き離してもにらみ合う

出会いがしらにごっつんこ
こけた自転車よけそこなった車が
だれかのからだにごっつんこ



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by nambara14 | 2010-11-24 13:27 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

庭園


       庭 園


冷たい雨が降っているけれども
この入口をくぐれば回遊式の庭園がある
いつか歩いたことはあるはずだが
霞がかかった情景以上には思い出せない

そのときはひとりではなかったような気がする
この上り下りの激しい日本庭園をすこし巡ると
よりそうふたつの影が浮かんでくる
きっと木漏れ日に空気はぬくもっただろう

急に冷え込んだこの二三日
寒気がするけれども医者に見てもらうかわりに
どうしても行かなければならないところがある

それなのにそこへはどうしても足が向かずに
変色した記憶に引き寄せられてここに来てしまった
傘の内まで濡らしてもまだ降り止まぬ秋の雨


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by nambara14 | 2010-11-17 16:36 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

喝采



    喝采

気がつくとステージらしい
ライトがまぶしくて 客席は見えない
いったいここはどこなんだ
自分はなにをすることが予定されているのだろう
えーと みなさまこんばんは
客席からはなんの反応もない
いまは昼間なのかもしれない
ひょっとして客席はからっぽなのかもしれない
手近なところに鏡がないので
自分が慣れ親しんだ風貌でここに立っているのか
たしかめようがない
外科医として救急患者の手術を多数こなして
どんな窮地にも動じない自信はひそかに持ってはいるが
いわば見知らぬ場所で
なんの状況もわからずに目覚めたようなものだ
世の中は不条理だなどとは
陳腐すぎて口から出てゆかない
とりあえず危険は迫っていない以上
落ち着いてしばらく現状をさぐり
周辺の情報を入手した上で
出口をさがすこととしよう
気がかりなのは
自分の声と動き以外に
なんの反応もないことだ
自分を追いかけているスポットライトみたいなもの
きっと撒くこともできない追跡者
せっかくですから
突然意識を失って倒れた場合の処置について
お話しましょう
講演会では聴衆が興味津々で聞いてくれるテーマだ
拍手も何もないが
慣れた話の内容だ
・・・というふうに患者の呼吸を確認し
そっと寝かせたまま救急車の到着を待ってください
小一時間話してポイントは述べ終わった
状況はなにも変わらないが
別にどうということもない
実存主義者のように嘆息してみせても
なんの意味もないことを知っているから
これからのことは予測しようもないが
わけがわからないぐらいでは
自分は泣かない
経験豊富な外科医だ
すべてを運命にゆだねよう
外科医なら空腹と喉の渇きにも耐えられる、
かな?


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by nambara14 | 2010-11-12 13:43 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)

雨傘



       雨 傘


冷たい雨の中を行き過ぎる傘の群れ
色とりどりの傘
大きさも高さも傾きも違っている
上から見れば丸いかたちがくるくる
機械仕掛けのようによけあっている
たまにはぶつかって転覆するものもある

カメラを引いていくと
ビルの谷間の通りを並行に
あるいは交差したり
地下や建物に消えていく
多くの小さな傘が見える

とりわけ傘にこだわる女性の
高級な材質・デザイン・差し心地を見ると
カメラをぐっと近づけて
夜目遠目傘の内を確かめたくなって
接写衝動に悩まされる

畳まれた傘から滴り落ちる雨粒
一瞬映画の一場面を思い出す
悲しい恋のストーリーだった
フランスの地方都市の
今 目の前の景色をとざす激しい雨








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by nambara14 | 2010-10-28 14:14 | 新作詩歌(平成22年発表) | Comments(0)