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カテゴリ:新作詩歌(平成18年発表)( 14 )

時間の自由


以下、平成18年(2006年)に書いた詩です。なお、「時間の自由」は、一部手直しの上、「SPACE75号」(平成19年9月発行)に掲載しました。

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    時間の自由


由緒のありそうな旅館の一室 複雑な寄木細工のような空間の構成 
狭い庭を 重なり合う屋根が区切る その改装は和洋折衷
畳の間と段差のある板の間 細い廊下 灯りは直接間接照明のコンビネーション 
隅々まで計算されつくした時間の流れ 美味な酒と料理 木の風呂 和布団

細い路地は 明治の風を吹き寄せ 文明開化の活気と戸惑いを暗示する 
ここで人力車から降りようとする異人が躓いたか 悪漢に切りつけられたか 
公の歴史書には 詳しいことはなにひとつ記録されていない
むしろ ここでは一切の事実が記録されないことが 暗黙の了解だったのだろう

番頭は 常に往来に目を配り 来客に気を配り 従業員を使いこなした
濡れ場や 怪しげなふるまいには さぐりをいれながらも 決してでしゃばりはしない
流血は拭い去り 泥の汚れは洗い去り 金のもつれは知らんふり
眠ったようなふりをしながら すべてを飲み込み 的確に差配する役割

ここは特別の物理学が適用される場所 主観的時間はシュールレアリスト
飴のように伸び縮み 過ぎ去ることもなく ただ広がり続ける 重要な事項が
比例的にサイズを決定する そうしてぽっかりと空いた隠れ穴蔵の中は特別の法律が
適用される場所 殺しちゃいけないが 少々の修羅場や捨て台詞はお咎めがない

あれから何年経ったのか おれの中に生きているあの旅館 覗けば感極まる万華鏡
薄暗い和室でふたつの重たそうな影がアクロバット体操に興じている うめき声を立てながら
あるいは叫び声か嗚咽か歓喜か 客観的な時間が秩序正しく並ばせた出来事の連続体
一瞬目をつぶれば それらをめったやたらにかき回し無秩序に並べ替えてしまう 時間の自由





by nambara14 | 2006-12-08 16:29 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

歴史の路地裏または理論への信仰


木造家屋の間の路地を抜けようとすれば こどもたちが走りまわっていて歓声があがる
土の路地は足にやさしく雑草がそこいらじゅうに生えている 名も知れぬ草花に名も知れぬ虫が舞う ここは地図のどのへんなのか 何枚も何枚もある地図はパッチあてで補修されていて
等高線も異なる時点での観測データの張り合わせだ そのようにこのあたりはかつてなんだったのか調べようとすれば 地質学者のようにここにとどまらなければならない

石造りの家屋が立ち並ぶ迷路のような路地はアラブ系の街並みだろう。頭の上の板にパンを乗せて運ぶ少年。ここでもこどもたちがサッカーみたいなゲームをしている。うれしそうに叫び声をあげる。路地沿いの塀は傷んでれんがが一部露出している。金物屋がなべ釜を所狭しとならべている。ここにも地図はあるだろうが、地図をあまり使わないひとびともいるようだ。詮索してもしょうがないとでも言いたげに見えるが、民族がちがうとひとの皮膚や表情やしぐさは読み取りにくいので、早計に結論は出すべきではない。

ここは世界の中心だったことのある街だ。それでもあちこちに路地はある。といってもこのあたりは高級住宅地らしい。この建物は昔高名な神官が住んでいたとか、この広場の一角で皇帝は暗殺されたとか、地図におびただしい注釈がついている。偉大な過去の栄光が巨大な遺跡として発掘され保存されている。ここでは奴隷がライオンと闘う見世物が行われていたという。流れた血は床の傾斜に沿って溝に集められ地下に流されたらしい。貴族から平民まで嬉々として殺人ショーを楽しんだのだった。

その程度のことは日常の判断力で理解可能だ。だが、目に見えること触れえることだけでは到底理解できない理論というものがある。たとえば、エネルギー保存の法則。137億年前にビッグバンとやらで宇宙がひょっこり生まれたんだって?物質はすべて宇宙の塵。塵が寄り集まって草になり肉となる。ほろびれば灰になり土になる。風に舞っていのちが受け渡される。増えも減りもしない物質の質量。

たとえば、閉じた宇宙。たとえば膨張している宇宙。やがて収縮しはじめる宇宙。ユークリッド幾何学が成り立たない宇宙の構造。そんなものは感覚では理解できない。天才の理論がそういうから信じるだけだ。

たとえば量子力学。物質は粒子と波動の両方の性質を持つ。甲乙の区別が付けられない素粒子レベル。どこを通ったかわからないなんて。どの路地を抜けたか特定できないなんて。そんなことは理解できない。

天動説に対する地動説。○○世紀のひとびとは戸惑っただろう。だれも自分ではもてない理論の問題だからだ。

聖書に対する進化論。天地創造の理論はどうなったのか。

それでも天才は現れ、だれも気がつかなかったことを叫んで驚かせる。投獄されても処刑されても真理を叫ぶ声は消えない。

《それでも地球は回る》

だが、大衆はただこう言うことができるだけだ

《それではなぜ目がまわらないんだろう?》


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   (注):この詩は、詩誌「SPACE」74号(2007年)に発表しました。


by nambara14 | 2006-11-02 14:08 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

ひとはいかに生きるか?



ひとりの男の子の誕生
産声をあげる
力の限り泣き叫ぶ
母乳を与えられ
眠り
むずがり
お尻をよごし
また泣く

じっと観察していると
この赤ん坊の行く末が
気の遠くなるくらいの
未来であると感じる
インフルエンザや難病に
かからなけりゃいいが・・・

立てるようになると
変なところに落ちなきゃいいが・・・
毒物を飲み込まなきゃいいが・・・
包丁で怪我をしなきゃいいが・・・

台風で家を流されても
いのちは助かるだろう
地震で家を焼かれたら
いのちは助かるだろうか・・・
津波で一瞬にしてからだをさらわれないだろうか

無事小学校に入学できたとする
教科書を音読する
体育の時間になんとなくからだを動かす
どんどん背が高くなり
塾に通い
私立中学校への入学試験を受ける

そのとき隣国からミサイルは発射されないだろうか
生物兵器はばらまかれないだろうか
核兵器はとどめをささないだろうか

無事に中高一貫校を卒業して
大学を受験する
かろうじてどこかの大学に合格する
学問研究に没頭し
スポーツを楽しみ
コンパにも参加する
ガールフレンドもできるかもしれない
さまざまな欲望に振り回されるかもしれない

大学を卒業してとある会社に就職できるかもしれない
初任給をもらって感激するだろう
仕事も覚え 地位も上がり
結婚を考える
直感で気に入った女性と一緒に暮らし始め
やがてできちゃった婚ということになる
いつのまにか子供が生まれ
世代が一巡する

このようにありふれた人生にも
連続した長い時空がかかわっている

戦争に征かずにすんで
交通事故にもあわず
災害をも潜り抜け
殺されもせず
襲われもせず
不治の病にも罹らず
五体満足に生き延びる

人生80年時代だ
老衰でやすらかに息をひきとるまでには
無数のステップがある

世の中はそういう無数のステップの安全を保障することが必要だ
国家というのもはそういう重要なシステムであり
元首はそれを的確に運営する責任を負っている

そのように個人の人生と
国家というものの関係を
きちんと整理して理解するようにさせることが
教育の基本だろう
国民に対する義務だろう

そして個人もまた
真剣に学ぶ義務を負っていることを
認識すべきだろう














by nambara14 | 2006-04-24 15:12 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

額縁



藤田嗣治の偉大さに今まで気がつかなかった自分がなさけない

さすがに美術の専門家は藤田の正確な評価にたどり着いたようだ


戦争画をたくさん描いたという


おそらく死ぬか生きるかのぎりぎりの状況でうみだされるものが

人間の真実に近いような気がする

藤田自身も最高傑作だという自負をもってたらしい

帰国した藤田が従軍画家としての義務を果たしたことを責めることはできないだろう


戦争責任を引き受けるかたちで祖国を去った藤田はそのとき64歳

フランスでは、「亡霊が帰ってきたと報じられたそうだ」

田舎に引っ込んだ藤田を訪ねてくるのは近所の子供たちだけだったそうだ


やがてカトリックの洗礼を受け

小さな聖堂を建てそこにフレスコがを描いた

多くを語らなかった藤田だが

そのフレスコ画のかたすみに藤田自身を描き込んでいた


おそらく偉大な画家の描いた絵の前に立つとき

壁も額縁もキャンバスも すべてが消えうせ

生きたまま絵の内容が立体化して中空に飛び出してくるのだろう

藤田は晩年子供たちの絵を描いた

かつて乳白色の女たちを描いてパリの画壇の寵児となった画家が

やすらかなメルヘンの世界にたどり着いたのだろう


その絵を見ていると

たしかに子供たちは思い思いに藤田のまわりで過ごしたかと思うと

あっというまにそれぞれの家に帰ってしまうのだ

キャンバスは真っ白で呆然と立っている

また明日子供たちが遊びにくるのを待っているのだろう














by nambara14 | 2006-04-10 15:59 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)



おれはめっちゃ観察して 考えて 話しかけた。

おれはがんばった。

おれは自分の精神を集中させてやるだけやった。


たわいもないことでもへこむ。

きみはむすめみたいに若くてかわいい。でも無関心。

知らんふりするなよなあ。


桜が満開だねえ。むずむずしちゃう。花粉症じゃなくても。

あやしい夜陰にまぎれて はめをはずしたくなっちゃう。

わたしってどうよ?



酒瓶はころがり、おでんやあげものやかまぼこは散らかる。

風がござを吹き上げ吹き飛ばす。スカートがめくれる。

春の夜は 乱れたこころ。乱れたいからだ。とめどなく散り落ちてやまない。

by nambara14 | 2006-03-31 16:37 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

ことばあそび


しきりずむずむずがゆい

いしだんだんだんござか

のぼってみればかくさく

ふりかえりみるかすみか


 標準語訳

 仕切り リズム ずんずん(むずむず) むずがゆい

 石段 だんだん 団子坂

 昇ってみれば バカ臭く

 振り返り見るか 霞か

by nambara14 | 2006-03-24 13:54 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

眩暈


手を伸ばす

そこからずうっと視線を延ばしてゆくと

地平線に交わる

スカイラインは複雑な凹凸があって

心の中でスケッチしようとすると

とても骨が折れる



視線を右横に走らせる

どこまでも走らせたいのに味気ないコンクリートの壁と

不ぞろいのビルの林に阻まれる

それでも意地を張ってぐるりと体を回転させる

高速道路がこんなに視界をさまたげているのだなあ

「あっ!」 自分の手が通り過ぎる女性の手に触れてしまった

ひらあやまりにあやまるしかない・・・



それでも 懲りずに 手をかざし 空を見上げる

斜めに視線を延ばしてゆく

高層ビルの屋上を越えて

とんびのように曲線を描く視線

雲に乗せる想い

「どんどん飛んでゆけ!ずっと遠くまで!」



そのとき世界はぐるぐると回りだした

不規則な回転が自分の平衡器官を狂わせる

空色と茶色の平面がひるがえり

赤と黒の平面がひるがえり

流れる模様となった平面があとからあとからひるがえる

もう目を開けてはいられない

もうこれ以上立ってはいられない

もう 自分も辺りも なにがなんだかわからない・・・









by nambara14 | 2006-03-20 15:17 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

情動


どの女にも愛を注ぐドンジョバンニ。

裏切ったのではなく、平等で寛容なだけだという。

肌のきれいな女のそばに行くと眩暈がする。

さりげなく言葉で女心をつかんでしまう。

お金もじょうずにしのばせて。

手練手管は口説きのテクニック。

ひとのこころをひきつけるための方策。

なじみの女がいないのだけが気がかりだが

遊び相手はとびきり色っぽく

話し上手で明るく楽しい。

今夜は情欲が刺激され続けている。

情動をすなおに発揮できるシチュエイションが

用意されてるのかな?

さもないと、鈍。序盤に。

わけわかんなくなっちゃうね?






by nambara14 | 2006-03-07 21:04 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(1)



よれよれの 気持ちひきずり 歩く道 まだ春は来ず 武者震ぶるる


by nambara14 | 2006-02-20 13:57 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)

詩歌「悦楽の園」

からだの相性ってあるのかな?

パーツの大きさや肌合い体質や体型

方向や機能やスタミナ

体臭や体力や分泌液やテクニック

快楽をむさぼろうとする姿勢

愛情と愛着と歓び

精神的な渇望と肉体的な欲求

からだが吸い付くような快感

しびれるような悦楽のさなかに

うめき声よがり声を交換する

動物に還って

快楽の限りを尽くそうとする

営みのなかで証明される相性

こんなにいいのに

相方がいけないのは悲劇だ

あそこがうずかないといわれてしまった衝撃

からだの相性がいい相手と

絶頂まで登りつめあえる幸せ

そういう随喜の瞬間を最近経験できたかなあ?
by nambara14 | 2006-01-30 22:14 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)