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2014年 09月 13日 ( 1 )

最近の詩集評(7)

          
伊藤浩子詩集「Wanderers」。女性の生理に根ざしながらも様々な知的操作を通して鮮明に描かれる悪夢のような情景は、生の謎を解き明かすこともできずに彷徨い続ける人間の宿命なのか、あるいは不条理に満ちた現実を詩によって再構成することによるカタルシスなのか?鋭く問いかけてくる。

森山恵詩集「岬 ミサ曲」。妖精の物語の世界に誘われたかと思うと、とてもシリアスな現実世界が現れたり、宗教的な厳粛さを感じさせたり、水底にひそんだり、言葉遊びが繰り返されたり、心象風景がめまぐるしく変化するが、それらを通じてひとの生きる姿や思いが不思議な透明感をもって描き出される。

北爪満喜詩集「奇妙な祝福」。父や母や祖母と過ごした過去の情景が、いとおしむように丁寧に描かれる。視線は自己の内面へと向けられ、なつかしさと同時に喪失感にとらわれる。ヘアーサロンでの美容師との会話で他者とのつながりを感じるデリケートな感性。わたしの誕生を祝福したのはだれだったのか?

海東セラ詩集「キャットウォーク」。行分け詩、散文詩、ひらがな詩、ビジュアル詩など様々なスタイルを試みる。鋭敏な視覚が対象の動きやかたちや色彩を精密にとらえる、点描画やモザイクのような手法が印象的だ。言葉の印象派と言えるだろう。客観的な描写の陰にほの見える人間の感情が確かに感じられる。

石原明詩集「パンゲア」。エロスと死がシュールレアリスティックに描かれる。愛し合う男女の体も解体されて絡み合う。タランチュラ、アンドロメダ、ラフレシア、サラマンドラ、アンドロギュノス、ブラックホール、パンゲア等想像力を刺激する多くの言葉やイメージや技法が独自の詩の世界を生み出した。

石原明詩集「雪になりそうだから」。だれかに話しかけるようなやわらかな文体で語られるのは、結局は人間の生であり恋であり死であり答えのない問でありノスタルジアであるようだ。ラプラタ河の土手の小さな穴からこの世界に目を見張っている仔ウサギ。そのような視点から丁寧に紡がれた物語だ。

有働薫詩集「モーツァルトになっちゃった」。モーツァルトの音楽に惚れ込み、その生涯をたどりつつ、後世のモーツァルト観もとりまぜた、熱狂的なモーツァルト讃歌となっている。恋人を見つけてはしゃいでいる詩心がほほえましくもありうらやましくもあるが、同時に、生きることの悲しさも感じさせる。

野田新五詩集「月虹」。満を持して刊行された第一詩集。父母や友人知人など今は亡き人々の思い出がしみじみと語られる。どこかさびしそうで人懐こそうな著者が、さまざまな人物のようすやしぐさや口調などを、親しみを込めつつユーモラスに描写すると、いつのまにか読者も深い共感にとらわれてしまう。

中村不二夫著「戦後サークル詩論」。「サークル詩」について、膨大な資料をもとに、戦後における活動を詳細にたどり、多くの詩誌、詩人、作品を紹介する研究書。ハンセン病や結核などの療養所、国鉄等の職場における詩的活動は、政治や社会との関わりにおいて文学を捉えようとする運動だと位置づける。

結城文詩集「夢の鎌」。太陽、月、庭木等を見ると自分が今日まで生きてきた過去を思い出すとともに不確かな未来を思う。若かった父母との思い出、ともに暮らした家族との情景、引越しの時に移植した木々のことなど、花鳥風月を思わせる穏やかな筆致の中で、「夢の鎌」は限りある命の大切さを痛感させる。
by nambara14 | 2014-09-13 10:28 | 詩集・詩誌評等 | Comments(0)