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スポボイダム老人の臨終


    スポボイダム老人の臨終


アンコール曲も終り 会場は万雷の拍手で満たされた
ピアノの巨匠はやや猫背で 子ねずみのようにステージを行き来する
ブラーヴォが叫ばれ スタンディングする者も相次いだ
熱狂はいつまでも鳴り止まないと思われたが・・・

老人は目をつぶったまま 演奏されたソナタの情景を想い起こしていた
( どこか田舎町で自分よりずっと年下の少女に恋して破れたり
夜更けに月の光の差し込む部屋でラブレターをしたためたり
狂おしい熱情を抑えきれずに嵐の中をさまよったり・・・ )

そのとき何者かが老人に声をかけた 老人は何も答えなかった
さらにその者は老人の肩に手を触れ すこし揺さぶりながら声をかけた
次の瞬間 会場には小さな悲鳴が聞こえ 何人かの者が走り出した

( 最後のソナタには名前がない この自由闊達な心境にふさわしい曲名は
「自由奔放」か「解脱」か「悟り」か なにがいいだろう・・・?)
・・・老人はそのとき既に息を引き取っていた (後でわかったことだが)


Commented by Tomoko at 2007-09-12 12:48 x
情景が見えるようです……わたし、ソナタをきいたひとりになっています。
Commented by nambara14 at 2007-09-13 10:05
Tomokoさん、コメントありがとうございます。
 実は、この詩にはいろいろ仕掛けがあります。種明かしは興ざめかもしれませんが、参考までに・・・。
 まず、ピアニストは、ポッリーニです。
 ソナタは、ベートーベンの、悲愴、月光、熱情のことです。
 最後のソナタは、32番のことです。
 もちろん、老人のことは創作です。
 いま、ベートーベンのピアノソナタをききつづけているので、ふとこんな詩がひらめきました。
 気に入っていただいてうれしいです!
by nambara14 | 2007-09-06 13:22 | 新作詩歌(平成19年発表) | Comments(2)