人気ブログランキング | 話題のタグを見る

無知蒙昧の世過ぎ



毎日通う道沿いには 濠があり 由緒ありげな欄干のある橋を渡れば 左手には 高層ホテルがそびえる。 右手には 別の高層ホテルがあり その先に 低層のビルや住宅や店舗が並んでいる。

地下に張り巡らされた鉄道網からは群衆が吐き出され 吸い込まれる。道路の片隅に小さな入り口があって地上と結ばれている。はじめはもの珍しく辺りを見回したものだが 今ではすっかり興味を失ってしまった。

麻痺した感覚を刺激するものといったら 季節の移ろいにしたがって咲き誇る 桜やつつじの花ぐらい。あるいは、救急車のサイレンや政治行動に従事する街頭宣伝カーの割れるような声ぐらいだ。

ところが 最近 大手術を受け2ヶ月の入院および自宅療養を経て ひさしぶりに この通いなれた道を歩いてみると いままで見えなかった空気の色が見え 草いきれが匂い コンクリートの肌触りを感じるような気がする。

とりわけ 道路沿いにある公園には めずらしく背の高い木が何本か立ち 木陰を作っている。そこには なにやら古めかしい石碑が立っている。4,5メートルはあろうというその石碑の銘文を見れば 130年ほど前 ここで当時の政府高官が暗殺されたと記されてある。

歴史などに興味のない身にもなぜか 洋服を着て口ひげを生やし国の将来を見据えてきりっとした表情で歩いている高官の姿が見えてくる。そして 次の瞬間には悲鳴のような叫び声の中で血を流して倒れている高官そしてあわてふためく随員のようすが瞼に浮かんでくる。

いま 新緑が日増しに色濃くなる季節。 坂道のある公園には 行過ぎる人や休憩する人たちの姿が見える。思えば ここの町名は あの時代の有力な藩の名前に由来するという。

女子中学生たちが軽やかな歩調で歩いてくる。交わし合う声は弾み 顔はまぶしく輝いている。 < なにも知らなくても楽しく生きていけるだろうか? あるいは 色々なことを知れば もっと幸せになれるだろうか? >



無知蒙昧の世過ぎ_f0037553_22235230.jpg
Commented by 解説 at 2007-05-14 19:35 x
この詩に登場する石碑などについて種明かしをしています。写真もあります。興味のある方はぜひそちらのブログもご覧ください!
by nambara14 | 2007-05-11 15:44 | 新作詩歌(平成19年発表) | Comments(1)