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時間の自由


以下、平成18年(2006年)に書いた詩です。なお、「時間の自由」は、一部手直しの上、「SPACE75号」(平成19年9月発行)に掲載しました。

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    時間の自由


由緒のありそうな旅館の一室 複雑な寄木細工のような空間の構成 
狭い庭を 重なり合う屋根が区切る その改装は和洋折衷
畳の間と段差のある板の間 細い廊下 灯りは直接間接照明のコンビネーション 
隅々まで計算されつくした時間の流れ 美味な酒と料理 木の風呂 和布団

細い路地は 明治の風を吹き寄せ 文明開化の活気と戸惑いを暗示する 
ここで人力車から降りようとする異人が躓いたか 悪漢に切りつけられたか 
公の歴史書には 詳しいことはなにひとつ記録されていない
むしろ ここでは一切の事実が記録されないことが 暗黙の了解だったのだろう

番頭は 常に往来に目を配り 来客に気を配り 従業員を使いこなした
濡れ場や 怪しげなふるまいには さぐりをいれながらも 決してでしゃばりはしない
流血は拭い去り 泥の汚れは洗い去り 金のもつれは知らんふり
眠ったようなふりをしながら すべてを飲み込み 的確に差配する役割

ここは特別の物理学が適用される場所 主観的時間はシュールレアリスト
飴のように伸び縮み 過ぎ去ることもなく ただ広がり続ける 重要な事項が
比例的にサイズを決定する そうしてぽっかりと空いた隠れ穴蔵の中は特別の法律が
適用される場所 殺しちゃいけないが 少々の修羅場や捨て台詞はお咎めがない

あれから何年経ったのか おれの中に生きているあの旅館 覗けば感極まる万華鏡
薄暗い和室でふたつの重たそうな影がアクロバット体操に興じている うめき声を立てながら
あるいは叫び声か嗚咽か歓喜か 客観的な時間が秩序正しく並ばせた出来事の連続体
一瞬目をつぶれば それらをめったやたらにかき回し無秩序に並べ替えてしまう 時間の自由





by nambara14 | 2006-12-08 16:29 | 新作詩歌(平成18年発表) | Comments(0)