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最近の詩集評(14)


吉田博哉詩集『残夢録』。生と死のはざまで生きる人間の諸相を独特の語り口で生き生きと描いた現代の説話文学。切なさと滑稽さとエロスと暴力とがないまぜになり、仮構と現実が一体となって読者に迫ってくる。死への恐怖も巧まざるユーモアによって一抹の救いを見出すようだ。見事な出来栄えの詩集だ。

山田兼士詩集『羽の音が告げたこと』。今詩に最も広く深く取り組んでいる著者のディアローグを意識した詩篇は、自分との対話、文学作品との対話、音楽や美術との対話で構成され、あふれる詩想がさまざまな詩形に結実している。特に「喜びも悲しみも安乗崎」の美しい叙景と家族愛が読者の心に強く迫る。

細田傳造詩集『みちゆき』。自在な語り口はますます芸域を広げて読者を惹きつける。普通はタブー視される領域にまで言葉が入り込むのでアウトロー的な爽快感がある。家族も愛も性も犯罪も戦争も生死も噺家のように語られる。「フンコロガシ」など凄みに満ちている。意外性に富んだみちゆきが魅力だ。

甲田四郎詩集『大森南五丁目行』。大森で和菓子の店を営みながら詩を書き続けてきた著者。父や母や妻や息子のこと、疎開のこと、お客のこと、商店街のこと、原発のことなど、これまでに自分が感じたことや考えを率直に綴っている。年齢とともに体が動かなくなり店を閉めた今、新しい日が始まったのだ。

壱岐梢詩集『ここに』。ジュニア・ポエム双書の一冊だが、内容は子供向けだけでなく大人の立場で書かれた詩も多い。詩集全体にわたって繊細な感性がノスタルジックな詩空間を作り上げるが、特に母が亡くなったことを書いたタイトルポエムは金柑に寄せられた悲しみが見事に表現されていて感動的だ。

平野晴子詩集『花の散る里』。亡くなった夫との思い出はこんなにも重く切ないものかと読む者の心も息苦しくなるようなインパクトの強い詩篇が並ぶ。暴力的な表現はどうしようもない悲しみを紛らすための意匠でもあるだろう。詩を書くことを通してその心の痛みが少しでも安らぐことを祈るばかりである。

谷川俊太郎詩集『普通の人々』は、普通の人々を描いているが、まったく普通じゃない内容だ。人名をたくさん使って様々な人物を登場させる手法はありそうであまりない意外性があって「やられた!」と感じた。それにしても言葉がどんどん詩になってしまう天性は本人にとって戸惑いであるかもしれないね。

秋川久紫詩集『フラグメント 奇貨から群夢まで』。経済、会計、IT用語が美術や音楽と融合し、スイーツによって馥郁たる香りを放つ詩篇。著者のダンディズムと矜持そして効率性偏重の世相に頑固なまでに抵抗する姿勢がアフォリズムやセリフの形式での超絶技巧の詩群に結実した。装幀も一級の美術品だ。 山田兼士詩集『孫の手詩集』。ここまで孫への愛情を素直に表現することは意外と勇気がいる。誕生から一歳になるまでの孫ハルの成長を、祖父の立場からまたハルの立場に立って孫の手の写真を添えて描き出した21篇。俊太郎やユゴーや光晴の詩と呼応した視線の広がりが家族愛に更なる魅力を加えている。

くろこようこ詩集『ようこ つれづれ』。静かに世界を観察する画家の視線は、対象物の色彩と形を正確にとらえ、心象風景と重なっていく。どこか虚しさの漂う情景描写の中に自らのゆらめく思いが水割りグラスに水中花となって咲いてる。何があっても生きるしかないという人間の心情が確かに感じ取れる。

結城文詩集『ミューズの微笑』。ヨーロッパへの旅を通じて感じたことを丁寧な情景描写によって書き留めた詩篇。海陸空にまたがる自然描写は美しく、特にアイスランドで見たオーロラはローマ神話や北欧神話を連想させる。過剰な表現を抑えた著者の深い陶酔の思いがミューズの微笑となって読者に伝わる

by nambara14 | 2019-02-11 19:54 | 詩集・詩誌評等 | Comments(0)