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ある別れ



十年以上隣人として過ごしてきたが
ほとんど言葉を交わしたこともなかった
一年前に主人は悪い病気に冒されて
アメリカで治療を受けたが助からなかったそうだ
子供のいない夫妻だった
夫亡き後 妻だけがひっそりと暮らしていたが
ついに実家に引き上げることにしたのだそうだ
あいさつをすることもなく引っ越していったが
そういう関わりでしかなかったとあらためて思わされた
憎み合うこともないが親しく付き合うこともないというのも
自然の成り行きだったと思い返す
遠くにいても近くに感じる友人のことを思い出す
いつのまにか消息不明になった友人のことを思い出す
大部分はお互いの家を訪れることもない付き合いだとしても
悲しくも寂しくもないと自分に言い聞かせて生きてきた
ほんの少しのひととわずかの時間だけ
世間話をしながら腹から笑い合ったこともある
手探りをし合うひととの関わりの方程式は複雑すぎて
解は見つからないままそれでも静かにひとを観察しつづける
決定的な時もいつのまにか過ぎてしまう世間の流れの中で
遅れがちの知らせや祝辞やお悔やみが徐々に寄せられる
おおげさなしぐさも嗚咽もなしに
ああという程度のとぼけた顔つきでもっとも辛い出来事を受け止め合いながら
だれにも平等な時の流れに流されていく






by nambara14 | 2015-11-02 19:44 | 新作詩歌(平成27年) | Comments(0)