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最近の詩集評(4)

星善博詩集「静かにふりつむ命のかげり」。死を正面から見据えた精神の強靭さ。死者、骨、柩、墓、葬列などの語彙がくりかえし使われる。宇宙、人類の歴史、命の受け渡しなど、長い時間軸の中に、個々人の短い生を浮かび上がらせる。死を見続けることでかえって生のはかなさとかけがえのなさがわかる。丁寧に選ばれた言葉は的確で読む者の心を打つ。

山田兼士詩集「羽曳野」。[羽曳野]、[安乗の遅刻]、[萩原朔太郎の詩碑]の三部構成。古代への想念に重なる家族との思い出、還暦を意識する自分の来し方、住まった土地、自分に影響を与えた人々、今は亡きひとびとへの追憶など、穏やかな言葉を通して浮かび上がってくる痛切な感情。芭蕉の句のアクロスティックな活用、朔太郎の詩の引用などさまざまな技巧の陰に、著者の人生の複雑な陰影と深い感慨が見えてくる。

吉田広行詩集「Chaos/遺作」。人間の生のはかなさを自覚するがゆえに愛おしさもひとしおなのだが、しっかりとつかまえようとしても世界はまぼろしのようにしか見えない。この世にはChaosと小さく渦巻く遺作のようなものだけがあって・・・。一瞬と永遠。静謐な知性と気品に満ちた抒情の漣。

近澤有孝詩集「指を焼く」。生まれて以来さまざまな病気に襲われるという試練にさらされ、死を強く意識しながらも、エロスによって生き延びうると感じる。それは、快楽である以上に、血と汗にまみれた切ない痛みや寂しさのようなものであり、運命に翻弄される自分に触れてくれる菩薩のようでもある。

水島英己詩集「小さなものの眠り」。湯殿川の散歩者が紡いだダンディな詩篇群。「今ここ」と「さまざまな時と場所」が重なって立体的な効果をもたらす。家族や友人知人さらには過去の文学者への思いがしみじみと語られる。とりわけ「マングローブの林」は、旅する二人の会話と島尾敏雄への敬愛が巧みに溶け合った傑作である。巧みな引用に満ちた落ち着いた文体は詩集全体に確かな陰影と品格を与えている。

倉田良成詩集「詩、耳袋」(山海物語集の内)。現代の神話作家が日本文学の深い造詣を駆使して作り上げた独特の語り口の奇談、怪談集。現代社会に感じる「魂の帳尻」の合わなさへの違和の作者なりの表現だという。豊富な学識に基づく引用と身近な体験を融合させたホラーは人間の生死をさまざまなエピソードによりすさまじくもユーモラスに描き出す。

田中健太郎詩集「犬釘」。日常も非日常も国内や海外での出来事も穏やかな筆致で描かれるが、仔細にみると、心の内は生のはかなさで揺れ動いていることがわかる。その認識が他者への思いやりや共感に通じるのだろう。時には過激になっても、暴発することはない。誠実に自分と向き合う姿勢が印象的だ。

峯澤典子詩集「ひかりの途上で」。きわめて繊細な感性がひかりを見るとき痛々しいほどの刺激を受ける。自分の存在ははかなくあやうくとらえどころがない。だが、子のために自分の乳房をしぼることで理屈を超えたいのちを実感する。すぐれて絵画的なタッチが精密に人間の光と影を浮かび上がらせる。

坂多瑩子詩集「ジャム 煮えよ」。四コママンガのような趣がある。何気ない情景で始まり、辛辣なあるいは残酷な展開があって、最後はブラックユーモアで終わるといった具合に。死者も生者も融通無礙な夢のような世界は、現実の重圧や不安を軽くしてくれる。「母その後」は、とりわけ切ない笑いを誘う。

日原正彦詩集「冬青空」。家庭、バス停、駅、公園、街、青空など日常のなにげない情景に潜むひとの命の厳しい現実。生まれ生き死ぬという定め。昨日今日明日を静かに見つめ続ける目。愛する妻の死の影にふるえる心が切ない通奏低音を奏でる。読者は胸がいっぱいになりもはや読み進めることができない。
Commented by 近澤有孝 at 2013-07-23 14:16 x
 拙詩集「指を焼く」へのさっそくの評をいただき、感激しています。病気うんぬんに限らず皆等しくさらされる死への怯えとエロスのもだえ?を描ききることができたら、と思っていたのですが、なかなかやっかいな命題のようです。
「カツカツ」というけっこう長い自伝的エッセイをアメブロに書いています。ご笑覧いただければ、幸いです。
Commented by nambara14 at 2013-07-23 15:43
生と死とエロスは人間にとって根源的なテーマですね。詩においても必ず根底にはそれがあると思います。益々のご活躍を期待しています。
by nambara14 | 2013-06-26 21:13 | 詩集・詩誌評等 | Comments(2)