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雨の日



       雨の日


冷たい雨が降る中を歩いて駅まで行き
吹き抜けのホームで少し待ってから
めずらしく空いている電車に乗った
若い母親に抱っこされた女の子が
降ろされて座席に立って外を見ながら
よくわからない言葉を叫ぶ
ちょっと離れた座席に
父親らしい男が傘を二本かかえて
無表情に座っている
見るともなしに見ると
女の子は母親似で顔立ちが整っていて
動きがはげしく騒がしい
母は女の子がなにを言っても
愛おしそうに顔を見つめる
なかなか愛くるしい若い母親だ
鷹揚そうに見える父親だって
家の中では冗談を言ったり
娘と風呂に入りたがるかもしれない
妻につきまとうかもしれない
すましているからといって
淡白だという保証はない
大きな川をすぎたあたりで電車は地下へ入る
雨模様は変わらないようだ
これからすることを確かめながら
手帳にメモし始めると
斜め向かいの席の学生風の女性が
携帯でしばらく話し続けているのに気づく
待ち合わせ場所や時間の確認をしているらしい
そろそろ降りる駅が近づいてきたので
席を立ってドアの前まで行く
電車を降りて歩き出すと
さきほど乗り合わせたひとたちのことは
忘れてしまうはずだが
数時間後に用を足して
家に帰ってきてからも記憶が消えない
折しも親類から悲しい知らせが届いたが
雨が降り続く空の下で
無数のひとびとがなにかを濡らしながら
おたがいに無関係に
まったく別々に日々を過ごしているとしても
なにかの拍子で
影響しあうこともあるのかもしれないし
わけもなく澱のようなものが
心の底に積もることだってあるのかもしれない
おそらく明日になれば
雑然とした景色の中に
向き合うべき場所が見えてくるだろう
見届けなければならないひとびとの顔も
ぼんやりとかもしれないが
浮かび上がってくるだろう
こういうことが相次いで起こっても
だれを責めることもできないと
自分に言い聞かせることで
なんとかやり過ごさなければならないのだろう
by nambara14 | 2012-12-30 23:54 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)