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短歌『われなき空』



       『 われなき空 』


                  
軽くほら投げ上げてみる魂の行方不明の春を追いかけ


一人居の時の兆しに誘われて歩みの先の身の遅き知る


引きこもる日に日を重ね夜を継いで現か夢か花散るを見る


脱力の日々重なれば我知らず粗相した身を償いきれず


言挙げて指弾する声かまびすし物陰にひとうずくまり居る


ポスターの顔に向かってこんにちは本郷界隈迷える羊


彼の人も通える坂を登り来てグーテンタークつわぶきの夢


橘の生家はここか帰るさに家々の屋根灰の降る見ゆ


犬を連れ歩む老女の足取りの揺れつつ今日もすれ違いゆく


走り来る子供の足は速くして夕闇のなか浮かび消え去る




空しいと言わぬ決意の緩み来る空の奧処の果て無き見れば


移ろえる午後の日射をメヌエット緩やかにして眠りに誘う


夕惑い薄膜かかる脳髄のホルンのごとく減衰しゆく


時を超え空を伝って流れ来るディヴェルティメントここに休らう


悲しみは固めてしまう苦しみは括ってしまう新しき朝


抜き放つ太刀の切っ先きらめいて受け損なえば血まみれに断つ


日射あれば誰にともなく心笑む肉体の闇開かんとす


束の間の平穏を知る浅知恵を振り払っては勤しむ祈り


いつの日かわれなき空を飛ぶ鳥の変らぬ軌跡一筋に描く


虎の顔被りて潜む森深く人心無く静寂に溶ける




聖人の言行見えぬ俗にあり汚れた身体磨きつつ笑む


蛇にあらず鬼にあらずと気負っては酷寒の夜一人震える


目覚めれば昨日の傷の痛みあり包帯をして今日を始める


昨日より今日は明日へ移り行く決して止まらぬ時計を思う


人は去り人は来たって新旧の暦をめくり日々を重ねる


慣れぬ道古すぎる地図惑いつつ音符のように飛び石を飛ぶ


町裏のただあるだけのこの道は埃っぽいけどたまに通るよ


毎日を過ぎ行く日々と知りながら今日も歩くよ昨日来た道


悲しみと肩を並べて帰る道かくもひそかな鐘の音を聞く


神経の深層にあるしくじりもしくしく泣けばしばしやわらぐ




すとんとんすれっからしのすりこ木で隙間だらけの簀を叩く


この空が七つの色へ帰り行く光の波の果ての呟き


誰か見た心模様は去りて後誰にも見えぬ虹橋を架く


暗闇をひとすじ光通過して消失点を暗さへ返す


この瞳かたく絞れば暗黒の内へとばかり見開きてあり


身の内の最も硬く歯も立たぬ頑迷を噛み固陋を齧る


開いては鼻突く臭い触っては移ろう香りうろたえて切る


緩やかに崩れる酪を指先で整えて食う胡乱の夕べ


通ぶって大きな欠片食す酪生き物の末饐えて鼻刺す


これを見てこれが自分と肌脱いで皺寄せて来る瑕に躓く



今日もまたささくれて行く自らの乾いた触手ひとしきり掻く


おれが朝顔を洗えばすっきりと目覚めて空は高く晴れゆく


焼け付いてだれかの昼が喘ぎつつ絨毯状に伝わってくる


不忍の池に立ちては恋しさの地下の通路をくぐり行く花


訳も無く引かれ行く身の重たさに炎暑の下天見下ろして落つ


機上より国見る影は地に落ちて断崖を這う蜥蜴となりぬ


考える人となりては帰り来て光と影のあわいに沈む


崩れ行く崖の如くに倒れ行く人影ありて泥に隠れぬ


目に沁みる光を避けて血の走る網目の中へ暗がりて行く


掻き暮れて縋る柱も空掴み傾く屋根は逃げ道を閉づ
by nambara14 | 2012-09-08 14:35 | 五七五七七系短詩 | Comments(0)