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八月の野辺


      八月の野辺


生暖かい風に吹かれて辺地をさまよう
人ごみにまぎれて見失うはずの自分を
くっきりと見つけ出してしまう八月
形見のハンカチで汗を拭うと
忘れていた顔が見えてくる

たったひとつの家族にさえ
無数の物語は生まれ
悲喜劇は演じきれず語りつくせない
過去の情景が無秩序に組み替えられて
最も脆弱な細胞を攻撃する

悲鳴を上げつつとりすがる血筋を
なんども逃げ損ねて
涙する場面が次々と襲ってくる
思い出したくもない現場へと
繰り返し引き戻す見えない力に
どうしようもなく屈しそうになる

今またしても新たな厄病に取り付かれて
折り合いをつけようと必死になっていると
伝え聞く耳を
容赦なく車群の走る音が妨げる

地震で倒れた石碑は放置されたまま
明日への見取り図を示すこともない
ほとんど愚痴しかこぼせなくなった
老人の待つ土地の
低く頭を垂れる一族が訪れる
八月の野辺に


by nambara14 | 2011-08-05 18:39 | 新作詩歌(平成23年) | Comments(0)