ついら
2010年 09月 05日ついら
ホームの反対側から呼びかけるひとの声は届かない
耳に手をやって聞こえないという身振りをしてみせるが
上りの電車が入ってきて音も光もさえぎってしまう
下りの電車も入ってきたので二重にへだてられてしまう
電車が発車したあとにはそのひとの姿はなく
こちらも電車の中から去り行く車両を見やるだけだ
ケイタイメールを送ろうにもアドレスを知らないし
家に帰っても連絡先がわかるかどうか自信がない
あのときおたがいに電車をやりすごして
どちらからともなくコンコースへと合図すれば
話すこともできおたがいを確かめることだってできたはずだ
あのひとの顔には見覚えがあるのにだれだかはっきりしない
思い出そうとして思い出せない宙ぶらりんの気持ちにさいなまれる
無意識になにかをつぶやいたのか周りからまた変な目で見られてしまった
by nambara14
| 2010-09-05 01:22
| 新作詩歌(平成22年発表)
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