ソネット 66
W.シェークスピア
こんなことばかりでもううんざりだ、わたしは死の休息をこい願う
価値ある人を貧しき生まれとみなし
なんの取柄もない者が分不相応に着飾っている
純粋極まりない忠誠も不幸にして偽証に過ぎず
輝かしい栄誉は情けないことに場違いの者に与えられる
純潔の処女は不作法にも娼婦として貶められ
正しく完璧な人は不当に辱められる
力強さも誤った使われ方をすることで力を発揮することができなくなる
学術は権威によって表現の自由を奪われ
愚かな者が医者のように技術を支配する
簡明な真理は単純さという誤った呼称を与えられ
善良な捕虜は悪徳の高官に仕える
こんなことばかりでもううんざりだ、わたしはそれらにお別れしよう
ただわたしが死ねばわたしの愛する人をひとりにしてしまうのが気がかりだが。
SonnetLXVI
W.Shakespeare
Tiredwith all these, for restful death I cry,
Asto behold desert a beggar born,
Andneedy nothing trimm'd in jollity,
Andpurest faith unhappily forsworn,
Andgilded honour shamefully misplaced,
Andmaiden virtue rudely strumpeted,
Andright perfection wrongfully disgraced,
Andstrength by limping sway disabled
Andart made tongue-tied by authority,
Andfolly, doctor-like, controlling skill,
Andsimple truth miscalled simplicity,
Andcaptive good attending captain ill:
Tired with all these, from these would I begone,
Save that, to die, I leave my love alone.
ソネット 65
W.シェークスピア
南原充士 訳
真鍮も、石も、陸地も、涯無き海も
悲しい死の定めには勝てないから
美はこの猛威とどのように争うのだろうか?
その訴えは花よりも強くはないのに、
おお、夏の蜂蜜のような香りは
荒々しい日々の周到な包囲網に対して抵抗できるだろうか?
堅固な岩石がそれほど頑強でなく
あるいは鉄の扉がそれほど強固でないなら、時が朽ち果てさせてしまうだろうから、
おお、恐ろしい思索よ!ああ、
時の最高の宝石は時の宝石箱から隠されているのだろうか?
あるいはいかなる強い手が時の俊足を押さえ込めるだろうか?
あるいはだれが時が美を損なうのを禁じうるだろうか?
何者もできないだろう、
この黒いインクの中でわたしの愛する人がいつまでも明るく輝くという奇跡が有効でない限り。
Sonnet LXV
W.Shakespeare
Since brass, nor stone, nor earth, nor boundlesssea,
But sad mortality o'er-sways their power,
How with this rage shall beauty hold a plea,
Whose action is no stronger than a flower?
O, how shall summer's honey breath hold out
Against the wreckful siege of battering days,
When rocks impregnable are not so stout,
Nor gates of steel so strong, but Time decays?
O fearful meditation! where, alack,
Shall Time's best jewel from Time's chest lie hid?
Or what strong hand can hold his swift foot back?
Or who his spoil of beauty can forbid?
O, none, unless this miracle have might,
That in black ink my love may still shine bright.
ソネット 64
W. シェークスピア
わたしは 時の過酷な手が 埋もれた古い時代の富と誇りを
破壊してしまうのを見てきたので、
時折高い塔が崩れ落ちるのを
そして永遠の真鍮も滅亡の猛威の奴隷であることを わたしは目の当たりにするので、
わたしは 不毛な大洋が岸辺の王国に対して有利であったり
堅固な土地が大海原に勝利したり
失っては獲得し、獲得しては失うのを見て来たので、
わたしは そのような状況の入れ替わりや
状況自体が滅びに至るのを見てきたので、
滅亡はわたしにこんな風に考えることを教えた
すなわち時はやって来てわたしの恋人を連れ去ってしまうだろうと、
この考えは 嘆き悲しむしかない死に似ている、
失うことを恐れるものがある以上。
Sonnet LXIV
W. Shakespeare
When I have seen by Time's fell hand defaced
The rich proud cost of outworn buried age;
When sometime lofty towers I see down-razed,
And brass eternal slave to mortal rage;
When I have seen the hungry ocean gain
Advantage on the kingdom of the shore,
And the firm soil win of the watery main,
Increasing store with loss, and loss with store;
When I have seen such interchange of state,
Or state itself confounded to decay;
Ruin hath taught me thus to ruminate
That Time will come and take my love away.
This thought is as a death which cannot choose
But weep to have that which it fears to lose.
ソネット 63
W. シェークスピア
傷つける時の手によって今わたしが押し潰され疲れ切ってしまっているように
わたしの恋人がそうなる時のために、
寄る年波が彼の血を抜き取り彼の額に
皺を刻み、彼の若い朝が
老いの険しい夜へと旅をし、
そして今彼が支配しているあらゆる美しさが
消え失せ、視界から見えなくなり
彼の青春の宝物が奪い取られる時のために、
そのような時のためにわたしは今
困惑させる老いの残忍なナイフに対して備えておく
それがわたしの愛しい恋人の美しさを記憶から切り捨てることはないように
もしわたしの恋人の命を切り捨てることはあったとしても、
彼の美しさはこの黒いインクで書かれた詩行によって見ることができるだろう
この詩行は生き続け、この詩行の中で彼はいつまでも若々しくあるだろう。
Sonnet LXIII
W.Shakespeare
Against my love shall be as I am now,
With Time's injurious hand crushed ando'erworn;
When hours have drained his blood andfilled his brow
With lines and wrinkles; when his youthfulmorn
Hath travelled on to age's steepy night;
And all those beauties whereof now he'sking
Are vanishing, or vanished out of sight,
Stealing away the treasure of his spring;
For such a time do I now fortify
Against confounding age's cruel knife,
That he shall never cut from memory
My sweet love's beauty, though my lover'slife:
His beauty shall in these black lines be seen,
And they shall live, and he in them still green.
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ソネット 62
W. シェークスピア
自己愛の罪は わたしの眼も
心もすべてを虜にする
そしてこの罪には治療法がない
それはわたしの心の奥深くに根付いているからだ、
わたしは思う、わたしの顔ほど優美な顔はないし
わたしほど完璧な姿かたちはなくそれほど完璧なものはありえないと
そしてあらゆる価値において自分はほかのひとを上回っていると
わたしは自分の価値を自ら定義する、
だが鏡がわたしのありのままの姿を映すとき
なめし皮のように老いた自分の姿にわたしは打ちのめされる
思っていたとはおよそ正反対のわたしの自己愛に気づく、
そんなにも自己愛に耽る自分は罪深かったのだ、
あなたの若い美しさを 老いたわたしの顔に塗って
わたしが私自身のために称賛するのはあなたでありかつわたし自身であるのだ。
Sonnet LXII
W. Shakespeare
Sin of self-love possesseth all mine eye
And all my soul, and all my every part;
And for this sin there is no remedy,
It is so grounded inward in my heart.
Methinks no face so gracious is as mine,
No shape so true, no truth of such account;
And for myself mine own worth do define,
As I all other in all worths surmount.
But when my glass shows me myself indeed
Beated and chopp'd with tanned antiquity,
Mine own self-love quite contrary I read;
Self so self-loving were iniquity.
'Tis thee, myself, that for myself I praise,
Painting my age with beauty of thy days.
令和初詠(2019年5-7月)
CMの 現場知れども 商品の 売れる店先 血沸き肉躍る
高台の 植物園より 見晴るかす 沖行く船の 針路を思う
小舟漕ぐ 水の抵抗 感じつつ 孤影は深く 湖水に沈む
おそらくは 急変するは 天候も ひとの様子も 届かぬ仕業
その知らせ 受け入れがたく 身は固く 心はやわに 崩れんとする
おいおいと 嘆いてみても なにひとつ 変わらぬことを 知りつつ 呻く
ともすれば 折れんとするは 細枝の 重みに堪えず 落ちるに似たり
ペシミスト オプティミストか 泣き笑い 辛い時こそ 笑ってみせる
あそこにも ここにもあるよ エレベーター 開けば嬉し 老若男女
切迫の 順位によって なすことの 論理を超えて 自分の味方
介護士の 顔色を見る 入居者の 老いは深まり 幼稚に帰る
来るたびに 驚かされる 心身の 状況変化 老いの深まり
自らの 明日の姿を 見る心地 かくも衰え 寂しさ募る
さはされど 昇りて沈む 太陽に 照らされる日々 三度の食事
唄歌い 書道楽しむ 日課にて トイレの後の 入浴至福
愚痴を言う 手前で止めて 深呼吸 作り笑顔も 心に浮かぶ
人はみな 不完全だと自覚して 過ごす日々にも 鶯は鳴く
梅雨曇り 籠り聞こえる 鳴き声は セミと知れれば 夏は来たれる
この気持ち うまく言葉に できたとき 千年の愉楽 ここに極まる
黙々と 鉱脈探る 削岩機 掘り当てるとき 瞳輝く
収穫の 時期は未定の 不定量 日々いそしめば 歓喜は実る
隣り合う 肘と肘とが 触れあえば 一触即発 敵意目覚める
雨傘を 押し付けられて 沁みとおる 嫌悪に濡れて 体をひねる
無視しつつ 背け合う顔 近すぎる 無辜の民にも 紅蓮の炎
鈍重な 扉のねじが 外れ落ち 閉まらぬ部屋は 恐怖の住処
怪談も ご無沙汰してる 冗談も 乏しい日々に 自撮りの変顔
現実と 感覚のずれ 大脳の 破調の徴 調整急ぐ
期日前 投票済まし 蒸し暑い 道歩きつつ 夢想に耽る
少々の 躓きあれど やり過ごし 失策粗相も 何食わぬ顔
憎しみの 錆びたナイフを 握りしめ 見境もなく 人を刺すとは
失った 大きなものと 引き換えに 手に入れたもの 小さくはあれど
流れゆく 川面眺めて 物思う 知られざるまま 消え去るものよ
常ならぬ 人世にあるを 憂うより 生きとし生ける 浮沈楽しむ
変わらざる 物はなければ さらばえて 蛇蝎のごとく 草むらを行く
お笑いに 興じる我も 聴衆を くすぐるを壷を さぐりつつ書く
物書きが 言わずもがなと 黙しつつ 言わぬが花と 山道を行く
気がかりが いっぱいになる ひとりでは こらえきれずに 投げ出せもせず
この父に この娘たち この母に この息子たち いっぱいの遺伝子
にぎやかな 子供たちだね ずれ込んだ 梅雨にも負けず 駆け回ってる
自らを 無愛想と知る 友がらと 不器用ながら 会釈を交わす
次はない 知りつつともに ためらえば 機会はついに 訪れはせず
日照を さえぎる雲を 突き抜けて 高く羽ばたく 無人の翼
ひとくくり またひとくくり 名状の し難き今日の 心身一擲
退屈は 紛らすものか 傲慢か 飢餓も苦痛も 背中合わせに
愚痴ばかり 吐き出すひとと なりはてて わずかに残る リセット本能
見極める 術などなくて 出たところ 勘が頼りの 日々の選択
見回せば 不信の笑い ばかりなり なにを信じて 生きればよいか
つつじ過ぎ 校門横の 掲示板 衣替えとある 行事予定に
下着から 上着までする 衣替え すっかり夏に なってしまった
忍び寄る 梅雨の気配を 憂いつつ 見上げる空の 透明な青
半袖の シャツ着た幼児 愛らしく 気づいてみれば 盲目の愛
きょうもまた どんなわたしに 会うのだろう 自分であって 自分じゃないから
さよならと 告げねばならぬ 日は近し 無言のままに 流れゆく川
病み上がり すっきり治癒し 金曜の 巷に混じる 一人でありたし
実印 認印 捨て印 ゴム印 訂正印 会社印 代表者印 記名押印 安心の形式
すれ違う 少年少女 笑いつつ 話し続ける 言葉が流行る
桜散り つつじは枯れて あじさいは 散らず枯れても 枝にとどまる
沈黙が 得意なわけじゃ ないけれど 言わないことや 言えないことや
自信持ち 身振り手振りで 話す人 沈黙だけが 苦手なのかな
その場所を 仕切る少女は 話上手 友達をみな 言葉でつかむ
開けない 心であれば 表情と 言葉と行為 物的貢献
唇を 重ねてみても わからない 心の奥を 開いて見せる
読唇術 読心術と 間違えて 独身同士 キスしちゃったの
風船を 膨らませたり しぼめたり 破裂するまで 待ちきれないよ
だれもみな 宇宙の一部 なにもかも 変化しかない 滅びるまでは
あらよっと 宇宙の果てに 呼びかける 一瞬にして 谺が返る
攪乱の 収まり行けば 空腹も 透き通り行く 湧水のごと
偏屈な 人も笑わす 芸人の 爪の垢でも 煎じて飲まな
日々変わる 天気のような 心身の 調子に合わせ なんとか生きる
並襟は 並じゃないねと 店員に 聞いてみたけど 迷いは解けず
いい調子 鼻歌も出る 帰り道 暑からずして なお寒からず
たわむれに リュック背負いて ふらつけば すっぽんまむし 生薬を飲む
自らを 意地悪と思う 者はなし 心優しき ひと世に満ちよ
自らを 悪人と思う 者はなし 善人ばかりの 現世であれかし
このたまは こういうふうに こう持って そんな感じで ああしておいた
聞き飽きた 憎まれ口を たたきつつ さてこの辺で 次の座敷へ
ハイウェーの つもりがバイウェー どこまでも 迷路が続く これぞマイウェー
広告は 羞恥心など 捨て去って 露出に耐える 美肌でありたし
割り込んだ 顔見てみれば ラブリーな 女性じゃないか 裏切るなかれ
この言葉 そのあの言葉 消してみる 無言のままで 川面を眺む
晴れ渡る 空の青さと 言ってみて 青とはなにか しみじみと見る
静止とは 理論の世界 現実は 動きやまない 止めようがない
初夏の 甘い空気を 踏み台に 大きくジャンプ 空飛ぶダンボ
からからと 笑い飛ばして 駆け出して 川のほとりで つまずいて落つ
強がりは 誰に向かって するものか 連休明けの 空は曇りぬ
自虐的 妄想の海 加虐的 底なし沼に 毒舌を入れ
十連休 いろいろあった 過ごし方 気づいてみれば 人ごみの中
両家族 おもちゃ売り場で 出会ったと スマホで寄せる 証拠の写真
この胸の どこに嫌われ 虫が住む 小異を捨てて 高く飛び行け
ふと見上ぐ 空の彼方に 翼あり 重たい心 乗せて飛び行け
夢のごと 逃げる人影 追い詰めて 切り捨てごめん とどめ一刺し
生来の ひねくれ坊主 引き連れて 草地の上を 裸足で走る
初夏に 誘われる人 思い出の バラの彩り 重なる香り
風邪薬 飲めば睡魔が 訪れる 巣窟を出で 夢の園へと
ソネット 61
W.シェークスピア
あなたはあなたの姿によってわたしの重たい瞼を
疲れた夜にも開いたままにしておきたいのですか?
あなたはあなたに似た影がわたしの目を嘲る間
わたしの眠りを妨げようと望んでいるのですか?
わたしの行動をつぶさにチェックして
わたしの中の恥辱や退屈な時間を見出させようとして
あなたがはるか遠くから派遣したのはあなたの心ですか
あるいはあなたの嫉妬のなせる業でしょうか?
いや、そうではありません!あなたの愛はいっぱいだとしても偉大ではありません
わたしの目を覚まさせておくのはわたしの愛なのです
わたしの休息を妨げあなたのために常に夜警の役割を果たす
わたし自身の真実の愛なのです、
わたしはあなたのために寝ずの番をしています、わたしから遠く離れたどこかで
あなたがほかのひとたちと親密に夜を過ごしている間も。
Sonnet LXI
W. Shakespeare
Is it thy will, thy image should keep open
My heavy eyelids to the weary night?
Dost thou desire my slumbers should be broken,
While shadows like to thee do mock my sight?
Is it thy spirit that thou send'st from thee
So far from home into my deeds to pry,
To find out shames and idle hours in me,
The scope and tenor of thy jealousy?
O, no! thy love, though much, is not so great:
It is my love that keeps mine eye awake:
Mine own true love that doth my rest defeat,
To play the watchman ever for thy sake:
For thee watch I, whilst thou dost wake elsewhere,
From me far off, with others all too near.
ソネット 60
W.シェークスピア
波が小石でおおわれた海岸に打ち寄せるように
われわれの時間もまたその終わりへと急ぐ
それぞれの波は入れ替わり
引き続く労苦とともにすべての波は戦いへ向けて進んでいく、
かつて光の大海原の中で生まれたものは
這い這いしながら成熟を与えられるところへ行きつく
悪意あるエクリプスは若さや成熟の栄光と戦う
そして今 時は与えた贈り物を奪い返す、
時は 若さの持つ栄華を刺し貫き
そして美の額に皺を刻み
自然の稀有なものを食い物にする
なにものもあり続けることはない あの大きな草刈り鎌以外には、
願わくば あなたの価値を称賛するわたしの詩が
時の残酷な手にもかかわらず 将来にわたって生き続けることを。
Sonnet LX
W. Shakespeare
Like as the waves make towards the pebbled shore,
So do our minutes hasten to their end;
Each changing place with that which goes before,
In sequent toil all forwards do contend.
Nativity, once in the main of light,
Crawls to maturity, wherewith being crown'd,
Crooked eclipses 'gainst his glory fight,
And Time that gave doth now his gift confound.
Time doth transfix the flourish set on youth
And delves the parallels in beauty's brow,
Feeds on the rarities of nature's truth,
And nothing stands but for his scythe to mow:
And yet to times in hope, my verse shall stand
Praising thy worth, despite his cruel hand.


















