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境界線



     境界線


泥にまみれて逃げ回った後
藁の寝床で脳がふやけるほど眠った
疲れはとれたが腹が減って動けない

ふらつきながら戸を開けると
畑があってなにやら実っている
気が付けばキュウリとトマトを齧っていた

だれかの声がして食べるのをやめた
野良仕事のなりをした男が銃を向けている
無意識に両手をあげて立ち尽くした

行けと言われれば行くしかない
わずかに満たされた飢えと渇きが
火をつけた空腹が視界をあやうくした

夜になって今度は違う畑へ行った
とうもろこしもすいかもなんでも食い漁った
そのときがさごそする音が聞こえたが

腹が満たされる快感には抵抗するすべがなかった
持ち帰るためにと手当たり次第もぎとっていたとき
近くで威嚇する声が聞こえた

腕に抱えたまま走り出したとき
轟音が響いた どうと倒れた
手には作物がしっかりと握られていた
# by nambara14 | 2012-07-17 15:55 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

好き



     好き


わたしのどこが好きですか?
顔ですか 体ですか
性格ですか 献身ですか
親の財産ですか?

わたしの全部が好きだと言いましたね?
わたしはいつも変化して
明日のわたしは今日のわたしではありません
わたしさえ分からないわたし

親が倒産しても好きでいられますか?
無能力になっても 偏屈になっても
顔が傷ついても 体さえ無傷なら
わたしを愛してくれますか?

年とともにすべてが衰えていきます
わたしの体はあなたを誘うでしょうか?
わたしの名前が削除される時が来ます
体を失ったわたしを好きでいられますか?
# by nambara14 | 2012-07-13 19:51 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

固形処理



      固形処理


この空間は見えない粒子でいっぱいらしい
見ることは信じることだなんて言われてきたが
今では高性能の機械を使って観測データを集積し
辛抱強く解析し続けてやっと信頼できるところまで行ける

可視光線は重力で曲がるが重さはないという
重さのない物質というのはとらえにくそうだね
暗黒物質の正体はまだわかっていないらしいし
現実をどれだけ調べても宇宙創造のわけはわからない

魂など信じなくてもいいだろうが
死者たちの思いがふわふわしていて
おれたちの呼吸する空気によって
体の中を出たり入ったりしていても

別に驚くようなことじゃないから
愚痴ぐらい聞いてあげようと言ったら
来るわ来るわ あんまり多いので
しっかり固めていつでも出てこれるようにしたよ
# by nambara14 | 2012-07-11 20:13 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

下着



     下 着


パンツが脱ぎ捨てられているそばを
犬が通りかかり
鼻先で臭いを嗅ぐ
とても臭―い

シャツをポリ袋に詰めて
若者たちが集まる
悲しみを捨て
歓びを求める

下着はテーブルに置かれる
下着を一枚ずつ嗅ぐ
臭いの中から相方を見つける
見た目は清潔そうだ

シーツにくるまって
過去を打ち明けあう
朝が訪れるまでは
抱きしめ合っていようね
# by nambara14 | 2012-07-10 15:00 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)

飛行船



     飛行船


空を見上げると ぽっかり浮かんでいる物体が目に入る
そののんびりしたようすが見る者の気持ちを和ませる
ふと目をそらしている間にいくつかのビルの間を移動している
見る者はただ数歩歩いてまた見上げただけなのだが

昨日の夜は眠りが浅く偏頭痛がきりきりと頭皮を突き上げる
取り越し苦労だなんて言われそうだとは思うのだが
ずっと借金に追われて夜逃げを繰り返してきた
気が付けば自分のまわりにはだれもいなくなっている

体の具合も心の調子の悪さに比例して低調に推移している
想像の世界に逃げ込もうとしても悪夢のような現実が妨げる
満員電車でもみくちゃになってくたくたになったぼろきれみたいに
ひととひとの隙間から放り出されてまた急ぎ足の群衆の間を歩く

あちこちが汚れているので早く体を洗えるところへ行きたい
汗ばんで悪臭が隠せない者同士が視線を避け合う路上にいて
ただひとつ浮き立つような思いにさせてくれるものが見つかった
ふと自分が空に浮かぶ飛行船になっているのだと思えてきた
# by nambara14 | 2012-07-04 10:48 | 新作詩歌(平成24年) | Comments(0)