カテゴリ:詩集「個体から類へ・・・」( 1 )


詩集「個体から類へ涙液をにじませるfocusのずらし方・ほか」(平成13年刊)より抜粋

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「個体から類へ涙液をにじませるfocusのずらし方」より



涙でぼやけた瞳に映っている風景に
読みとれる 奇妙に小さな表面積と曲率
観察に余念のない いわゆる冷徹な洞察眼というもの
生まれつきの涙液の乏しさが
とらえきれない
焦点をあわせられない心を秘めて
すこし鼻炎ぎみの文化人を気取って

なーに なにひとつ覚えちゃいねえ
やっちゃいな 後悔しないように
没頭!

さて 捨て去った明晰な論理・思考力の
向こうに見えてくる ただの地肌というもの
歩けば足のウラに不快な石ころや草の葉
水辺は汚れきって 空はくもりはじめる

ただこうしているだけではズダブクロのような□□を
いっぱいにしてやれない個人的な□□も
晴れた日の昼下がりなら
飼い犬がさがしだしてきたスペアリブのようなもので
お茶をにごすことができるかもしれない

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「力みすぎた肩をもつホモサピエンスのための断片的なエスキス」より

2 疾走また疾走の少女K

いつのまに軌道を外れて
やつれた女になったようだぜ
おみなえし虫鳴くときにおとはなし
バイクに乗せて走ったものだぜ
ふじばかまゆうべの夢は消え残り

一瞬の光にたとえることもできる
あるいは一瞬の闇にも
ふと目を閉じ再び目を開けたときに
元の世界があるなんて思わないことだ
通いなれた道すじで
突然刺されたり
くつろいだ小春日和の午後に
ガンを宣告されたりする
間近に笑みを交しあい肩をたたきあった同士が
いつのまにかこの世を去っている
タイムマシンを動かすつもりで
遡れば
みるみるビルは消え 人は幼くなり 世代がちがっている
時を下れば
年老いて 身寄りも失って 見知らぬ街がみえてくる
人が死んだら星になる
星が死んだらブラックホールになると信じる
「素粒子が引き合う力」というような次元で
考えるつもり
「遺伝子を組み替える実験に成功した」つもり
巡航ミサイルの性能が向上したつもり
ほとんどブラックホールのようなアプローチ

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「少年の部屋」より

春日

しょうしょうと笛が鳴る
春霞の王朝
楽部の足元に砂煙が立つ
青く引きつれた仮縫

無限はひとすじ切長の眼を閉じ
花びらは絶間なく散り落ちる
にじみだす沈黙と
見果てぬ夢と

だれか
壷のようなものを抱えて
ぼくの庇をたどっていく

ああ
間遠な牛車の転がりが聞こえてくる
長き日のぼくの透明

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落胆

その物の重さとそっくりそのままの力で
その物は持ってやりたまえ
強すぎも弱すぎもしない握力が
その物と溶け合うような気がするだろう
ちょうど寒天がその甘い溶液の中で輪郭を失うように
そのようにその物の漲る表面にそっと手を触れてみるがいい

この手の中で今にも割れそうなその感じ
その物のひっそり落胆する内空に至る感じ
粉々に砕けていくその物は
いま癒えるという語彙から無限に遠く
わたしのどこか古い細胞ばかりでできた中心に
硝子の細片のように突き刺さってくる



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by nambara14 | 2007-06-14 14:53 | 詩集「個体から類へ・・・」 | Comments(0)